激戦区・福岡でラーメンウォーカーの殿堂入りを果たした株式会社博多三氣(福岡県福岡市大野城市)。自社工場で生産した福岡県産「ラー麦」を100%使用し、衝撃の「替え玉10円」で支持を得ています。県内14店舗に留まらず、熊本、愛知にも進出を果たしている人気店が約2年前から使用している飲食店の店舗運営を支援するコミュニケーションツール「botto」とは何なのか。コロナ禍でコミュニケーション不足が謳われている中での活用、導入経緯や変化を管理本部マネージャーの田中洋一郎さんに話を聞きました。人気店が抱える課題 店舗数が増えるに従い、エリアマネージャーらが直接店舗を訪れマネジメントする機会は減ってしまうのは必然的。間接的にしか店舗状況を把握することが難しくなった田中さんは、各店舗20〜30人のスタッフ同士がしっかりとコミュニケーションを図れているかが分からず、「店長に何らかのサポートが必要だと感じていた」と話します。 「店長からは、『しっかりスタッフ同士コミュニケーションが図れている』という報告があるのですが、それならば、トラブルは生じないはず」だと、田中さんは考えていました。 意思疎通が図れていれば問題は起きないはずだが、どれだけ「意思疎通が図れているのか分からない」という課題は飲食店に限らず、多くの経営陣の頭を悩ましているのではないでしょうか。そして、三氣にはもう一つ「スタッフが育たない。自発的に動いてくれない」という大きな課題がありました。 一人ひとりが課題を見つけて動いてくれるようにするにはどうしたらいいのか。「スタッフの人数も多く、問題解決の方法も数多くある。その中で何を選択するべきか、難しかった」と、頭を悩ませる日々が続いていたそうです。「botto」との運命的な出会い 田中さんが人事評価制度の導入を考えていた2019年、「簡単にできますよ」と勧められて使い始めたのが「botto」でした。仕事の振り返りや、見つかった課題などを記入し、スタッフ同士で共有できます。 「提案を受けて心に響いたのは、その日何があったか、自分は今日は何点だったか、自分自身の点数をつけてみて気づいたことを振り返り、書き出す習慣をつけることによって生産性が向上することが科学的に立証されていることだった」工夫が生み出した習慣化 業務連絡ノートや日報などを取り入れている企業や店舗は数多くあるでしょう。しかし、記入されている内容は意味のある内容になっているのでしょうか。「頑張った」「特になし」など、「記入の時間が無駄」と思っているアルバイトも少なくはなさそうです。 そこで、三氣はアルバイトの就業確認書に「botto」を必ず書くと明記。田中さんは、「振り返り」よりも簡易に聞こえるよう、「日記」に言い換えて伝えました。「日記をつけることは、仕事の生産性が上がることが立証されているからやってみよう」 就業後に書き込むのではなく、就業時間内にアプリを使って全員が記入します。もし、時間外になってしまった場合は残業代も出すようにしているそうです。「自ら考えて行動できる集団になるため。お金を払ってでもやる価値がある。それだけ重要なことだと思っています」 特に学生アルバイトには、力を入れて取り組むように声を掛けているそうです。就職活動でよくある「学生時代に頑張ったことは?」という面接官の質問に対しての答えが明確になるからです。日頃から自分の気持ちや出来事を言語化出来るようになり、退職時にはこれまで記入した記録が掲載された冊子「bottoノート」が貰える仕組みになっています。コメントの質の変化 使用開始した約2年前と大きく変わったのが、書き込みの質です。当初は1行で書き終えるスタッフも多数いました。また「わたしがお店の改善点を言っていいのかな」と、アルバイトスタッフは躊躇してしまって、課題点の書き込みが少なかったのです。 しかし、「自分で自分の課題を書いてくれる人が増えてきて、店舗で見えた課題の書き込みが増えた」と田中さんは話します。 元々、bottoには書き込みへのコメント返信機能はありませんでした。しかし、田中さんは口酸っぱく「コメント返信機能が必要です」とbotto側に伝えました。「どうせ見てないから、書き込んでも意味がないとアルバイトさんたちに思われたくなかったんです。コメントを返せば店長たちが書き込みを絶対見ていると分かる」 田中さんの熱意が通じ、返信機能が追加されました。今ではスタッフの書き込みに対し、店長らが毎回コメントを返信することで書き込み率が上昇しました。bottoは飲食店と共につくりあげられたツールなのです。 福岡県内の直営全14店舗にbottoを導入。田中さんは「以前よりお店がうまく回るようになった」と実感しています。店舗に起きた実際の変化 ラーメン店では、作る人、運ぶ人などそれぞれの持ち場が固定されています。忙しい時ほど自分のことで精一杯になってしまうのは、誰にでも起こりうることです。 例えば、配膳や片付けが追いつかないときに、厨房の作る人が「ラーメン持っていけよ」と急かしてしまうと、「手が空いているお前が持っていけよ」と、ホールと厨房が喧嘩気味になってしまいます。そして、お店の回転率が悪くなる可能性も。 要するに、どれだけ相手を思いやり行動できるか。働く「人」の成長が不可欠でした。 店長たちの間では、「bottoを使い始めてからスタッフの『気づき』が増え、こっち(店長)も楽になった」という声も増えてきました。日々、振り返りを行うことで今相手が何をしてくれたら嬉しいのか、助かるのか、状況を見ながら考えて行動できる。それぞれが臨機応変に自分の判断で動けるようになったのです。 三氣では、小さい子供に帰り際、飴玉を渡すようにしています。しかし、忘れてしまうことも多々あったそうです。「たかが飴玉一つ。将来のお客様である子供は忘れられたことを覚えているかもしれない。必ず渡すことが目標でした」 100%には届いていないものの、たとえレジ担当者が忘れていたとしても、気がついた他のスタッフが自然に渡しに行けるようになった店舗もでてきました。 「お客様から褒めてもらえた。改めて仕事を頑張ろうと思う」という印象深い書き込みに対し、田中さんは「チームがいい方向に向かっている証だと思う。本人が喜びを感じ取り、コメントしていることに意義があります。そこで初めて、仕事の面白さを知り、botto(没頭)し、自発的に動き始められる。目指すべき姿です」 作業と仕事の違いは何なのか。与えられたものをこなすだけの作業に対し、自分で考えて課題を見つけ、解決していくことが仕事。「bottoはそれに気づかせてくれる。単純なことだけど、日々の積み重ねで効果が見えてくると思います」磨かれる「コメント力」が生む成果 書き込みに対する返信機能が、店長の育成にも繋がっています。田中さんは、「店長がどのような返信をしているのかも必ずチェックする。意外とコメント力が大事だと思っていて、文章力、語彙力がもろに影響するんです。言葉で表現できなければ、思いは伝わらず、指導のしようがない。コーチングの練習になっています」 返信のルールは、マイナス発言をしないこと。なるべくプラスの言葉で返し、発言を受け入れる。アルバイトだけではなく、店長の成長も並行して促している効果を体感しています。三つの「氣」に見る三氣の今後 お互いが気づき、今何をするべきか、以前より大幅に課題が改善されているのを体感できた一方、人の入れ替わりが激しい飲食店。「目指すべき最終ゴールはまだまだ遠いです」と田中さんは首を横に振るが、成長の度合いは計り知れない。 博多三氣が掲げる社訓は「やる氣 げん氣 負けん氣」。コロナ禍で苦境に立たされている飲食店。この3つの「氣」に自ら考え、行動する人間力が備われば、三氣に、もう怖いものはない。■会社概要株式会社 博多三氣URL https://hakata-sanki.jp/本部事務所 〒816-0912 福岡県大野城市御笠川3-13-1代表取締役 岩本志郎株式会社 bottoURL https://botto.co.jp/住所 福岡県福岡市中央区大名2-4-22新日本ビル3階(On RAMP内)問い合わせ m.mizuta@andgo-inc.co.jp, 090-6760-6706代表 水田匡俊